BS 活動報告 2019.03.24.

3月のBody Synergy Researcher’s Groupは普段のスタイルとちょっと違ったものとなりました。

元脳神経外科医であり、現在はRDTA (NPO法人救助犬訓練士協会) 所属の、救助犬ハンドラー玉川輝明さんとその愛犬アメリちゃんをお招きして、デモンストレーションとレクチャーをしていただきました。

元脳神経外科医の経験や知識を元に、脳科学的に犬の思考・心の動き、また人間との関係性についてお話ししてくださいました。

まずは、デモンストレーション。

ことの発端は、以前、二人が訓練しているのを見せてもらった時に「これはまさに人と犬とのBody Synergyだ!」と私が思ったことが、このレクチャーデモンストレーションをお願いしたきっかけでした。

上の映像からもわかるように、ハンドラーと犬の動きが一つになっていること、そして、動きのシンクロだけでなく、独特のぴんっと張り詰めたような気持ちの良い空気、そこにその空気を喜びを持って共感・共鳴している関係が見てとれます。

これってまさに、私たちがBody Synergyでやろうとしていることであり、共に動きながら感じていることと同じ現象なのです。

デモを見ていた方の声:

「ふたりがデモンストレーションを始めたとき、そこにある空気の密度が上がったように感じた。その空気に身を置くと、全身の毛穴がキューッと締まって体毛が逆立ち、微かな変化を捉えようとする様だった。共感というか共鳴というか、同じ空間で同じことを経験する時、私たちはお互いの脳波を感じ共有しているのかな、なんて思った。それは意識には上がってこないけれど、体はそれを知っていて、みんなの体同士は、実はそうやって会話しているのかも。なんて思ったりしました。」

「デモンストレーションを見ていて、よくダンスの時に使う「聴く」ということをやっている時のような空間の静寂さや緊張の張った感覚を覚えました。非常に集中力の高まっていた時間というのを肌感覚に感じました。」

見ているだけで伝わってくる、ハンドラーと犬の一体感。そこに、お互い繋がっていることへの「喜び」が見てとれます。

デモのあと室内に移動し、レクチャーを受けました。

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題名は『犬がわかること、出来ること』。

先ほどのデモンストレーションを、脳の仕組みと絡めてお話ししていただきました。

その中でとても興味深かったのは、学習するプロセスについてです。

行動主義心理学を謳う心理学者バラス・スキナーは、ハトやラットなどの動物に、特定の行動を学習させました。スキナーの手法とは、例えば、ライトが点灯する(コマンド)。そのあとハトが少しでも左を向くと餌が出るという仕組み/ルールを作り、それに気がついたハトは、ライトがついたら左回りをすれば餌がもらえると学習します。数分で左回りを教えられます。これは、ある特定の行動をとると餌がもらえる、という条件づけから学習させるという順番。この手法は、犬の訓練にも多く使われているそうです。おすわり(コマンド)という音が聞こえる。人間にお尻を押されるから座る。ご褒美がもらえる。そうやって、おすわりと言われたら座る、を学習します。

こんな手法が主流な中、長年、犬と共に暮らし、犬の訓練を続けてきた玉川さんは、その経験から、犬の心に注目しました。

まずは犬が覚醒し、高い集中力の状態であることが前提。例えば、人の手に注目させた状態で、パッと手をハウスの中へ入れる。物を追いかける習性のある犬は、その手を追いかけハウスの中に入る(自発的行動を誘発する)。そこでご褒美がもらえ、そして「そう、ハウスだよ」という声が聞こえてくる。

注意集中 → 自発的行動 → ご褒美 → コマンド

ハウスという声が聞こえるとハウスの中へ入る条件付けがされ、そこで褒めてもらえるから「嬉しい!」になるのです。

教員をされている参加者の方が、自分の職場での経験と照らし合わせていました。

「教師を始めて10年経とうとしていますが、教育の考え方と重なります。
僕らの仕事は国で決められたことを、できるだけナチュラルに教えることで、どんな言葉を掛ければ、どんな教材を提供すれば、子どもがよく学び、動くのかを考えます。昨年度、僕はほとんどの授業で「今日はどんな予定?」とか、「どんなふうにやりたいの?」「明日は何をしたい?」て、いちいち子どもに尋ねて、答えたことをやり遂げさせることにチャレンジしました。これは、集中させないと上手くいかないのですが。後半よい循環が生まれて、子どもがどんどん勉強や生活に前向きになっていました。あと、応用力や対応力が身についていた。「何をどうやって学ぶか」を子どもの自主性に任せていたことが大きかったのに、教科書の内容をちゃんとカバーしながら、それ以上のことがいくつかできました。」

自発的に始まった行動が学習となり、さらなる喜びにつながるという経験は、犬であろうと、人間の子どもであろうと大人であろうと、学びたい!できるようになりたい!もっとよくなりたい!という向上心に直結しているのではないでしょうか。

玉川さんとデモンストレーションをするアメリちゃんは、服従させられているという印象ではなく、誰の目から見ても、「楽しそう!」「嬉しそう!」「お父さんが大好き!」が身体から溢れ出ていました。お父さんと訓練することにまさに喜びを感じているようでした。それは、お父さんと心を合わせて一緒に動くことそのものに喜びを見出しているように見えました。

参加者の声:

「デモンストレーションでは目から伝わる意思と意志を感じました。玉川さんにはとても強い信頼と愛情を感じました。」

「いい意味で主従関係がとても良く見えた。アメリが、『ねぇ!ねぇ!ねぇねぇ!』とお父さんの顔をよく見ていて、(お父さんのことが大好きなんだなぁ)と思った。その大好き、も、日々の練習の中で積み重ねられた関係性の中で生まれるということはやっぱり動物には脳があって、気持ち・心が動く→身体や目の動きとして表現されるという順番なのだなと感じた。」

「信頼関係のバランス、薄すぎず、濃すぎず、どちらかに偏らず。絶妙な加減で成り立つもので、それを言葉なく(逆に言葉が邪魔になる?) 築かれる関係性って、やはりとてつもない反復練習が必要なんですよね?地道な作業ですね。 」

今回参加してくれたみなさんは、このレクチャーデモンストレーションを見て、それぞれの生活や自分たちのBody Synergyを通して感じるの感覚と重ね合わせることができたようです。

脳科学の観点から見るBody Synergy、とても興味深いです。

私たちは、人と一緒に動くことや共感・共鳴することで安心感や心地よさ、あるいは喜びを感じているからBody Synergyを続けてきていますが、その様子を見てもらってそれを脳科学的に分析してもらうなど、玉川さんのレクチャーデモンストレーション パート2もすでに期待しています!